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栃木県の地域スポーツ発展について 陸上競技協会担当の立場から ~SPORTS HUB vol.3~

今回は一般財団法人栃木陸上競技協会、記録情報部長の渡辺伸夫さんにお話をお伺いしました。

渡辺さんは僕が陸上を始めた中学生の頃からずっと栃木の陸上を支えてくださっている方で、当時から情報発信をされていました。楽しく陸上に接することができたのも渡辺さんのおかげだと思っています。

そんな渡辺さんと部活動やスポーツのイベント化など、陸上だけではない栃木県の地域スポーツ発展について、意見交換をさせていただきました。

「ソフト」を考える必要があり、その点が栃木県の課題だと思います

※渡辺伸夫さんの詳細なプロフィールは記事の一番最後に記載しています。

松嶋:何度も接点をもつタイミングはありましたが、何度もすれ違ってしまい、そうしている間に僕が独立してしまいました(笑)。今回はわざわざ渡辺さんからご連絡をいただきまして、ありがとうございます。

渡辺:そうですね。校内マラソン大会の件で少しお話をしたくらいですよね。地域スポーツに根差して独立をされるということで、方向性に強く共感しご連絡させていただきました。

今年は東京オリンピックが開催予定ですが、栃木県は2022年に42年ぶりに国体を開催予定で、スポーツに関する意識は高まっています。これを機に、地域スポーツが抱えている問題に向き合っていかなければと思っています。松嶋さんはどういった問題意識をもっていらっしゃいますか?

松嶋:個人的に感じていることは、地域スポーツはボランティアで成り立っており、収益を生むことが難しい仕組みになっているということです。スポーツで儲けてはいけない、という風潮もあります。

渡辺:やはり儲けてはいけない風潮があると感じますか。スポーツ教室を開催するときも、参加料を集めることに反対されるんですよね。スポーツ教室は自治体によって運営されることが多く、もちろん全てではありませんが保険料以外は参加料とらないケースが多いです。「受益者負担」という意識にはまだまだ遠いように思います。

松嶋:SPORTS HUBプロジェクトの第一回、「総合型地域スポーツクラブ」の座談会でも話題になりました。地域スポーツは公共インフラ的な役割が強いので、お金を投じる意識が低いと思います。

公共という視点で学校の部活動についてお聞きしたいです。渡辺さんは陸上競技協会の担当という立場で学校との接点も多いかと思います。

渡辺:高校や中学校の部活動や大会運営は、もちろん部費や参加料もいただいていますが、その額や割合は意外に小さく、様々な形で集められた公のお金で成り立っています。また、これらの活動は教員のボランティアに近い勤務によって支えられており、地域スポーツと同じ問題なのかもしれません。

松嶋:そんななか、国からは、令和5年度以降部活動を段階的に地域移行する「学校の働き方改革を踏まえた部活動改革」が打ち出されていますよね。

渡辺:「地域移行」と打ち出されていますが、どういった形で変わっていくのかイメージできていません。総合型地域スポーツクラブとも連動することになるかと思っています。

松嶋:いつ頃から動いていくか、などは決まっているのですか?

渡辺:全国的にみれば、すでに関係団体で話し合いを始めている地域もあります。隣の群馬県でも、県を中心とした話し合いが始まったと聞いていますが、栃木県はやや出遅れているように感じます。国からの方針が出たこの機会に、部活動も地域スポーツも社会から求められている形を再考し、関係機関と話し合いをしながら在り方を見直すことができればと思っています。

松嶋:栃木県は、他県に比べて地域スポーツ分野の推進が遅いように感じます。プロスポーツチームは他県に比べても多くあり、それぞれのチームが精力的に活動しているとは思いますが、このギャップは何なんでしょうか?

渡辺:栃木県では42年前に国体が開催されました。それが契機になればよかったのですが、その後継続的なスポーツの普及に繋がらなかったのではないかと思っています。今回の国体でも「カンセキスタジアム」という立派な施設ができました。ただ、それだけでは建築の分野であり「ハード」の発展なんですよね。継続して栃木のスポーツを発展させる「ソフト」を考える必要があり、その点が栃木県の課題だと思います。

松嶋:確かに。僕の専門分野である「マラソン大会」も良い例だと思います。県内の市民マラソン大会は国体前後に各自治体で開催されはじめたものが多いのですが、事業内容が大きく変わっていないんですよね。開催される意義と、スポーツによる地域の発展を考えると、「そもそもマラソン大会である必要があるのか?」という議論もアリかと思っています。

渡辺:そうですね。例えば足利市では、スポーツ推進委員も長年同じ人が継続するのではなく必要に応じて世代交代が進められているようですし、青年会議所など他分野の組織とも上手に連動していると感じたことがあります。こうした取り組みは他の市町でも進められていますが、県全体としてはまだ十分でないと思っています。

松嶋:なるほど。部活動の地域移行も、スポーツソフトの継続的な発展も、熱意や意思のある方、自治体がどう動いていくか、となってきそうですね。

ただ、組織が大きくなるほど身動きが取りにくくなるのも事実です。公共機関はなおさらですよね。その点私は個人なので、地域スポーツの発展を第一に活動できます。このプロジェクトのタイトルにもなっていますが、各組織が同じ方向に進めるような「ハブ」になれればと思っています。

栃木県って可能性がすごくあると思うんです

松嶋:ここからは個人的な想いの話になります。私は栃木の陸上でずっと育ってきたので、いつか大きなおもしろいことがしたいと思っています。ただ、これも県民性なのか、「イベント」のような大会はないですよね。こういった発想や議論はありますか?

渡辺:毎年開催している大会や選手権、持ち回りの関東大会などは開催できるのですが、競技以外の付加価値をつけたイベントを作る動きはありません。企画・運営スキルという視点もありますが、構成員が教員なので身動きが取りにくいのもあると思います。審判資格を持っている人数が全国的に見てもかなり少ないのも、実は非常に大きな課題です。

松嶋:なるほど。組織体制が先か、魅力的なソフトが先か。難しい問題ですね。個人的には、栃木県って可能性がすごくあると思うんです。北関東の真ん中ですし、関東から東北への玄関口ですし。例えば冬季に種目を絞ったイベントを開催したら、降雪地域の東北からの参加者も多く集めることができるんじゃないかと。

渡辺:便利だけどソフトが弱い。だから魅力度47位(笑)。でも、可能性はすごくあると思います。

例えば、福井県で開催されて桐生選手が100mで9秒98の日本記録を出した「Athlete Night Games」も、熱意ある個人の働きかけが周囲を動かし大きな力となり、成功につながったと聞いています。栃木でも決して出来ないことはないはずです。従来の発想にとらわれない若い人の発想やアイデアを、つぶすことなく膨らませていけると良いと思っています。

松嶋:なにかやりたいですね。

渡辺:栃木陸協も時代の変化に応じた形に変わる必要があると思っており、様々なアクションを起こそうと取り組みを進めています。ぜひ何か連携してやりたいですね。

あとがき

SPORTS HUB立ち上げのきっかけとなった、「地域スポーツは熱意のある方のボランティア精神で成り立っている。だからこそ発展しにくい。」という考え方が、問題として顕在化しているのが学校の部活動です。現在、「競技の強化育成」と「スポーツ活動機会の保障」を教員がほぼボランティアで担っているわけですが、国としてもようやく部活動の地域移行を打ち出してきました。ただ、この問題の解決策と捉えている「総合型地域スポーツクラブ」にも同様の課題があるということは、vol.1の座談会でも記載した通りです。

公とボランティア(やりがいの搾取)を混同せずに、自治体と関係機関が協働して、人・お金・仕組みを根本的に整えていく必要があります。これらは、スタジアム(外側)だけ作ってソフトを作れない栃木県としての課題とまさに一致していると感じました。2022年の栃木国体を、42年前の国体のように終わらせないようにしたいですね。

▼サイドストーリー

 

プロフィール

渡辺伸夫さん

1969年生まれ・県立高等学校保健体育科教諭
一般財団法人栃木陸上競技協会記録情報処理部長
▶一般財団法人栃木陸上競技協会HP:https://www.jaaftochigi.jp/
▶栃木陸協記録情報Twiiter:@tochigi_records

松嶋康平(主催)

フリーランススポーツプランナーとして活動しております。詳細なプロフィールはこちらから。
▶ Twitter:@matsuhira90

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